法律事務所職員と法務部員の働き方・考え方の違い

さて、4月から企業の法務部で働き始めた管理人ですが、入社と共にコロナで色々と会社の機能が変わり、なかなかに苦戦しています。
ただ、法律事務所と企業の法務部をどちらも経験できたことで、それぞれの立場や必要な知識・姿勢の違いがはっきりしてきて、非常に面白いなと思っています。

法律事務所と企業法務部をどちらも経験した管理人によるまとめ

行政書士に合格したとはいえ、弁護士でもないのに、法律事務所と企業法務をどちらもこんなに短期間で経験する人は少ないのでは?と思ったので、今回はその話をまとめてみようとおいます。あくまで「弁護士ではない法務事務」の人にとって、どう違うかと言う視点で書いていきますね。

法律事務所と法務部員って、そもそも何?

法律事務所とは、いわゆる「弁護士」や「司法書士」の事務所です。一般的には圧倒的に弁護士事務所を指すことが多いです。
法律事務所のビジネスモデルとしては、国家資格者がそれぞれに顧問先や担当顧客を持っていて、個別の案件を処理することでお金を稼ぎます。
法務部員とは、一般企業の「法務部」や「総務部の法務担当」のサラリーマンのことを指します。
法務部員は、自分自身がお金を稼ぐわけではなく、バックオフィスとして企業が利益を得るための重要な支援をすることで給与をもらいます。

法律事務所と法務部員の違いは?

守るものが1つか2つか

法律事務所で一番守らなければならないのは誰でしょうか?
「お客さん」?いえいえ、実際のところ、一番は自分たちの事務所です。そりゃそうだ。自分達が違法なことをしてまで、お客さんの希望を叶えることはしませんよね?そして、自分たちを守った上で、もちろん守らないといけないのはお客さんです。つまり、2つの壁を守り抜く必要があるのです。

その一方で、法務部員が守るべきは「自社の利益」です。
え?当然だろって?そうなんですが、実はこの違いが、次の「意見を伝えるのか、決断をするのか」の違いに大きく関わってきます。

意見を伝えるのか、決断をするのか

調査して意見を伝える法律事務所

法律事務所は自社と顧客を守らないといけません。例えばABCと3つ案があり、絶対どう考えてもAが良くても、法律事務所は「ABCがあります」とまず全てをお客さんに伝えます。もちろん、その上で「Aが一番今回は良いと私たちは考えています。その理由は〜」とも伝えますが、それを聞いた上で選ぶのはあくまで「お客さんです」つまり『ちゃんと取りうる選択肢を伝えること』で「説明義務を果たして自分達を守り」、『メリット・デメリットを伝えた上で選ばせること』で「お客さん」も守るという構造ですね。そのため、「ちゃんと取りうる手段を全て伝える」ことが必要になりますし、どんなにBやCが負け筋でも、顧客がそれをやりたいのであればそちらを叶える必要があります。

意見を聞いて決断をする法務部員

なので、法律事務所で働いていた時は、結果として思うような結末にならなかったとしても「でもお客さんに選んでもらったんだから」とある程度心理的に責任を和らげることもできますし、逆に「絶対失敗すると分かってたのに止めれなかった」と後悔することもあります。又、自分達の選択肢が間違っていたら、お客さんが選べるものが狭まってしまうので、かなり綿密に調べますし、専門外であれば別法人を紹介することもあります。

さて、法務部は法律事務所から見ると「顧客」側です。つまり、ABCの選択肢から一番良いものを選ぶ必要があります。
そのため、専門家に話を聞き、自社のサービスを理解し、経営陣と会議を重ね、自分達の責任で道を選びます。
良くいいえば「自分で選べ」ますが、どれを選んで良いのかわからなくても、自分の経験や知識が足りていなくても「選ばないといけない」のです。そこに、法務部の面白さと難しさがあると思っています。

決断をした後に相手との交渉がさらに待っている法務部員

もう一つ、法務部の面白さとしては「他の会社の法務部との伝言ゲーム」があります。契約をする時、基本的に契約書を交わすのは営業さんなのですが、もらってきた契約書に対して「保証が3年だと短いから10年にできない?」「賠償金は100万円までって、なんで上限決めているの?撤廃してもらって」と、法務は営業に依頼して相手方に修正を依頼します。そうすると、今度は相手の営業が相手の法務に「こう言われましたけどどうします?」と確認して、相手の法務から「10年は難しいけど7年なら」とか「じゃあ1000万円上限だとどうでしょう?」と返ってくるんです。ね、伝言ゲームでしょ?

もちろん、その営業が取れることによる自社へのメリット、その取引先との関係性、営業さんとの関係性を考えて、どこまでこだわるか、どこを妥協するかはそのタイミングで判断するのですが、「これくらいを妥協点とだとして、一回大きめに出てみよう」「ここはもう時間をかけずに相手の条件を飲んでしまおう」などのバランス感覚が必要になり、又法律事務所とは違った面白さを私は日々感じています。

法律事務所に向いている人はどんな人?

無資格者の場合、法律事務所で働く場合はあくまで「事務員」なので、最終的な判断は国家資格者の「先生」がすることが多いです。
又、他にもっと良い方法があったとしても依頼主がその方法を取りたくないといった場合は、別の方法を考えなければいけません。たまに、その方法だと高確率で失敗するのに…なんで…と思いながらサポートすることが、実際に私もありました。

そのため、何かを自分で決めたりするのは苦手、誰かのサポートが好き という方は法律事務所の方が向いているかと思います。
逆に「自分が中心に進めたい」「相手に合わせて欲しい」という方は、少し窮屈に感じるのではないでしょうか

法律事務所でのキャリア形成の注意点

ただ、ここで注意して欲しいのは、法律事務所はあくまで「国家資格者が稼ぐ」モデルなので、事務員としてのキャリアには頭打ちがあるということ。
600万円以上事務員で稼ぐようになる!というのは、事務員が複数いる大規模事務所で管理職になる〜位のレベル感であり、かなり難しいと思います。
ただ、例えば大規模事務所で営業やマーケティングも兼ねる事務員であったり、最近は事務所がベンチャーを立ち上げるようなケースもあるので、そういったアグレッシブな事務所であれば可能性は0ではないと思います。

法務部員に向いている人はどんな人?

法務部員の場合、企業の規模によって正直仕事の幅はかなり違います。大規模な企業であれば、法務部内で出世していくことを目指す人もいますし、ベンチャーであれば会社の法務を全て一人で担当できるようになることで、次のキャリアで経営に関わることを目指す人もいます。また、ある程度同業界や使用する法律が似ている業界間の転職によって、その業界やその法律のスペシャリストを目指す人もいます。基本的に、目の前の契約書に関しては自分でリスクを判断して営業や他部門に提言しますが、本当に大きな問題になると顧問弁護士に依頼することになります。

そのため、「ある程度自分で責任を持って進めたい」「業界のスペシャリストとしての道を極めたい」「経営に携わるポジションに興味がある」方には向いていると思います。
逆に「最後は誰かに決めてもらいたい」「他部門や他人と衝突や交渉することが苦手」という方には、かなりハードに感じるのではないでしょうか。

もちろん、法務部員といえども、やはりリスクの高いものは「顧問弁護士と相談」となるため、本当に1から100まで自分で決断できるわけではありません。組織の大きさによっては、かえって、いろんな人の決裁が必要で制約が多いところもありますのでそこは就職の際にしっかりと見極めてください。(全て自分の思い通りにしたかったら、もはや企業するしかないと思います…)

法務部員のキャリア形成の注意点

キャリア形成として注意したいのは、「法務部」の位置付けはかなり会社によって違うので、就職先をちゃんと見極める必要があります。一番見て欲しいのは、「法務部長」なり「法務の最終決断をする人」が、どういう経緯で今のポジションに着いたのかということです。例えば、法務部は5年に1人採用して、能力に関係なく順番に部長になるのか?必ず弁護士資格を持った人が部長になるのか?営業で部長になれなかった人が天下りのように部長になるのか?外部から経験のある人を部長として獲得しているのか?等をしっかりと見るべきです。
その上で最終的に自分が目指すゴールがどこなのか。「自社で部長を目指す」のか「転職で幅広い知識をつけて、その業種の生き字引みたいになる」のか「最終的にはベンチャーに行って、会社の立ち上げから上場まで一貫して部長として回せるようになる」のか、「ある程度まで昇ったら、総務や人事のスキルをつけて役員を目指す」のか等を設定することが重要です。その設定によって、とるべきキャリアや選ぶべき就職先が大きく異なります。

入りやすいのは法律事務所?法務部?

結論から言うと完全にケースバイケース!!です。
特徴としては、基本的に法律事務所の事務員はやはり「国家資格者の補助」なので、給与は一般職と同様あまり高くない傾向にあります。
ただ、小さな事務所の法律事務は慢性的に人手不足でもあるので、「給与が下がっても良いから法律関係の仕事がしたい」人には良いかと思います。
法学検定等を自分で勉強して取ったり、営業や経理など他のスキルがあれば、比較的異業種・異職種からも転職しやすいです。

一度法務の世界に入ってしまえば、法律事務所も法務部もどちらでも「実力さえあれば」割と転職は可能です。
ただ、先ほども伝えたように立場が違うと、調査や判断の内容が大きく異なるので、注意が必要です。
又、ずっと法律事務をしていた人が法務部に転職する場合は、遅くても30代前半までがおすすめです。30代後半からになると、やはり給与設定が高くなるので、同じ業種の違う会社で法務部をしていた人と戦うのは武が悪いです。又、ベンチャー法務に転職しようと思っても、会社の平均年齢より上なのに未経験扱いとなるので、心理的に受け入れられない人も多くいます。

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もし、今これを見ているあなたが第二新卒で、新人研修を受けてある程度社会知識があるのであれば、年齢との戦いなので、一度法律事務所を経由して法務部に異動することをお勧めします。第二新卒未経験でも取ってくれる法務部の仕事は正直あまりありません。

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新卒であれば、やはり一般企業の方が新人育成に時間もお金もかけてくれるので、一般企業の法務部を目指すべきです。もしそれが難しくても、すぐに法律事務所ではなく、そこそこ規模の大きい会社に営業や別のバックオフィスで入って、企業活動の成り立ちを知ってから、法学検定や行政書士などを取得した上で会社内で異動できないか挑戦して、それでもダメなら第二新卒の期間で法律事務所を目指すのがおすすめです。

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まとめ

法律事務所の職員と法務部員とは、立場や守るものが異なる故の、考え方や決断の違いがあります。
そして、仕事内容や年齢や目指すキャリア、欲しい収入によって、自分がどっちに向いているのか・どっちに行けるのかを考えてみてください。

それでは、いつか皆さんと法務の現場でお会いできることを夢見て、今回はここでさようなら。